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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)59号 判決 1982年5月25日

控訴人

左藤究

右訴訟代理人

堀家嘉郎

橋田宗明

深道辰雄

被控訴人

二瓶信行

右訴訟代理人

中込光一

三竹厚行

岡村共栄

岡村三穂

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

主文同旨。

二  被控訴人

控訴棄却。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏二行目から四行目の括弧内を「以下、各土地を一括して「本件土地」といい、各土地を同目録の各土地の表示に冠記した番号により「(一)の土地」、「(二)の土地」又は「(三)の土地」という。」に、同五行目から六行目の「公募(競争入札)に付することなく」を「一般競争入札に付することなく、同市を代表して」に、同七行目の括弧内を「この売却を以下「本件売却処分」という。」にそれぞれ改め、同三枚目表初行から二行目の「了した」の次に「(以下、大沢弘を「訴外大沢」、石川とし子を「訴外石川」、右両名を「訴外大沢ら」という。)」を加え、同裏六行目の「本件売買契約が締結された」を「本件売却処分がなされた」に、同四枚目表四行目の「本件土地の売却処分」を「本件売却処分」に、同裏二行目の「随意契約」から同三行目の「講ずることなく」までを「随意契約の方法によつて契約を締結するに当たつては、相手方の選定、売買価額の決定等について、一般競争入札の場合に準じた配慮をして公正な契約を締結することに努め、土地価格の鑑定等の客観的方法を講じて売買価額を決定するべきであるのにこれを怠り」に、同一〇行目の「本件売買により」を「本件売却処分により本件土地の所有権を失い」にそれぞれ改め、同行目の「本件土地の」の次に「適正な対価である」を、同五枚目表七行目の「被告に対し、」の次に「不法行為又は同市との委任関係に基づく善管注意義務違背による損害賠償として、」をそれぞれ加え、同一〇行目から末行の「遅延損害金の支払」を「遅延損害金を支払うこと」に、同裏三行目の「事実」を「事実中、(二)の土地及び(三)の土地が海老名市の普通財産であり、控訴人が市長としてこれを管理していたことは否認し、その余」にそれぞれ改める。

二  同六枚目裏末行を削る。

三  同七枚目裏二行目の「公法人」から同三行目の「組織変更されて」までを「組織変更をして公法人である海老名市土地開発公社(以下「公社」という。)となり、」に改め、同末行の「取得した」の次に「((三)の土地及び涯の土地を併せて、以下「本件取得地」という。)」を加え、同八枚目表初行を「2公社が本件取得地を処分するに至つた事情」に、同裏九行目の「公社が」から同一〇行目の「)」までを「本件取得地」に、同九枚目裏二行目及び一〇枚目表九行目の「相鉄線及び小田急線」をいずれも「相模鉄道及び小田急電鉄」に、同九枚目裏八行目の「西側を」を「西側が」に、同行目、同一〇枚目表四行目及び同一六枚目表六行目の「国鉄」をいずれも「日本国有鉄道」にそれぞれ改め、同一〇枚目裏三行目の「適せず、」の次に「また、本件土地は、」を加え、同五行目から六行目の「耕作地」を削り、同一一枚目表二行目の「考えられた。」次に「また、昭和五一年当時、本件土地は、東京電力株式会社の高圧送電線用鉄塔の建設予定地となつていた。」を加える。

四  同一一枚目表三行目の「本件土地を」を「本件売却処分の経緯及び」に、同裏三行目の「海老名市」、同七行目の「同市」及び同一二枚目裏八行目の「海老名市」をいずれも「公社」にそれぞれ改め、同一三枚目表二行目から三行目の「海老名市の理事者及び担当職員により」を削り、同五行目の「実勢」を「情勢」に改める。

五  同一三枚目表九行目から同一四枚目裏三行目までを次のように改める。

(四) また、(一)の土地は、従前、市道として認定使用されていたが、公社は、本件取得地が、原判決別紙図面記載のとおり、その中間に右(一)の土地が存在するため、涯の土地と(三)の土地とに分断されて利用価値が低下しているところから、本件取得地の有効利用を図るため、昭和四八年四月六日、海老名市(以下、単に「市」というときは同市を指す。)に対し、右涯の土地中東側の部分(のうち、分筆後海老名市上今泉三丁目一五四八番四畑一〇九平方メートルとなつた部分。以下、分筆後の右土地を「一五四八番四の土地」という。)を市道敷地として市に無償使用させることを申し出るとともに、右(一)の土地に存する市道を右敷地に付け替えることを申請し、市議会においてその旨の市道の路線変更の議決を経て、市は、同年七月三日、一五四八番四の土地を市道とする旨の告示をし、そのころ市道として供用を開始した。右路線変更に際して、市と公社との間では、将来、公社が涯の土地の残余の部分(のちに分筆後、(二)の土地となつた部分)及び(三)の土地を処分するときは、市は(一)の土地をも一括して処分するよう協力する旨の合意が成立した。

市は、昭和四九年一二月一〇日、国から国有財産であつた(一)の土地の無償譲与を受けてその所有権を取得し、昭和五一年三月五日市の所有名義の所有権保存登記がなされた。

(五) このような状況の下において、小山内議員の紹介により、訴外大沢からの買受申入れがなされたので、市、公社及び訴外大沢らで交渉の結果、市が本件取得地を公社から買い受けた上、(一)の土地と(二)の土地及び(三)の土地を一括して、本件土地全体を代金合計一一九〇万円で訴外大沢らに売却することとなり、同年四月一日、市は公社から、本件取得地を代金二四九万五五四五円で買い受け、同月三日、訴外大沢に対し(一)の土地及び(二)の土地を、訴外石川に対して(三)の土地を売り渡したものである。

(六) 控訴人が、本件土地を売却するに当たり、競争入札の方法によらず、随意契約の方法によつたことは次のとおり適法である。

(1)  本件売却処分のうち、(二)の土地及び(三)の土地の売買には、地方自治法二三四条一、二項の規定に適用はない。

前記のとおり、公社は、本件取得地をできる限り早急に処分する方針を決めたにもかかわらず、なかなか売却先が見当らず苦慮していたところ、訴外大沢らから買受の希望が出されたため、同人らと交渉し、売却に当たつての代金額等の契約内容を取り決めた。ところが、公社は、公有地の拡大の推進に関する法律に基づいて設立されたものであるが、本件取得地のように、公社が公共用地取得の際の代替用地として取得した土地を直接私人に対して売り渡すことは、右法律一〇条一項、一七条の法意に照らし相当でないと判断されたこと、公社所有地を代替用地として私人に売却する場合も、公社から直接売却せず、いつたん市に売却し、市を経由した形で売却することが従来からの慣行であつたこと、公社としては所有地をその帳簿価格(公社の買取価額に売却時までの公社の借入金利息相当額と公社の事務費を加算したもの)で市に売り渡し、市がこれを買主に売却することによつて帳簿価格と右の市の売却価格との差額を市の収入とすることができることの理由から、市、公社及び訴外大沢らの三者合意の上で、公社が本件取得地を、その帳簿価格である二四九万五五四五円でいつたん市に売り渡し、市がそのうち(二)の土地及び(三)の土地と(一)の土地とを併せて右の公社と訴外大沢らとの間の交渉で決定した価格である合計一一九〇万円で訴外大沢らに売却するという形をとつたのである。したがつて、本件取得地の訴外大沢らに対する売主は、一応市となつてはいるが、実質は、公社所有地について、公社と訴外大沢らとの間で売買がなされたものといつてよいのであり、公社と市との間の売買契約は、右のような理由から、一時的に市を中間に介在させるためになされたものにすぎず、市は、本件取得地を直ちに訴外大沢らに売却するために取得したものであつて、その普通財産として取得する目的で買い受けたものではない。地方自治法二三四条一、二項の規定は、地方公共団体の本来の普通財産を公正かつ有利に処分するために設けられたものであるから、右のような事情の下に市が取得した本件取得地についてした本件売却処分にはその適用がないものというべきである。

(2)  仮に、本件売却処分に地方自治法二三四条の規定の適用があるとしても、同条二項の規定により随意契約の方法によることができる場合に該当する。

(イ) 訴外大沢らに対する本件土地の売却は、随意契約ができる場合を列挙する地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「契約の性質又は目的が競争入札に適しないものであるとき」に該当する。

右二号の解釈に当たつては、国有財産に関する会計法二九条の三第五項、予算決算及び会計令九九条の規定が参照されるべきであるが、同令九九条二二号は「土地を特別の縁故がある者に売り払うとき」を掲げている。

本件土地のうち、(二)の土地及び(三)の土地の売却については、右(1)のとおり、すでに公社と訴外大沢らとの間で、同人らに売却することが決定されたものに前記のような理由で市が中間に介入して訴外大沢らに売却する形がとられたものであるから、訴外大沢らは右土地につき特別の縁故がある者に当たるものであり、右売買は、その性質又は目的が競争入札に適せず、随意契約の方法によらざるを得ないものであつたというべきである。

また、本件土地のうち(一)の土地は、前記(四)のとおり、市有地ではあつたものの、路線変更の際の合意により、公社所有の涯の土地中一五四八番の四の土地に相当する部分と実質的にはすでに交換されていたといつてよい状態にあり、市と公社との間で、将来公社が涯の土地中(二)の土地に相当する部分及び(三)の土地を処分するときは、市は(一)の土地をも一括して処分するよう協力する旨の合意がなされていたばかりでなく、(一)の土地は、(二)の土地及び(三)の土地に挾まれた鉤の手状の細長い形状の土地であつて、それ自体の独立した土地としての利用価値は極めて低く、右(二)の土地及び(三)の土地と一括して処分することにより最も高価に処分できるものであり、公社の訴外大沢らに対する(二)の土地及び(三)の土地の売却は、買手がなくて永年抱え込んでいる土地の処分に窮していた公社が、ようやく買受の希望者を得て処分し得るようになつたことによるものであり、市は、実質的に一心同体の関係にある公社の右土地処分を援け、その窮状の打開に協力する目的で、(一)の土地を(二)の土地及び(三)の土地と一括して売却したものであるから、右(一)の土地の売買も、その性質又は目的が競争入札しない場合に当たるというべきである。

そして、「契約の性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するか否かの判断は、本来政策決定の問題であるから、地方公共団体の長の裁量に委ねられるべきものであり、右事由に該当する旨の長の判断は、裁量権の濫用又は裁量の範囲の逸脱がない限り尊重されるべきであるが、本件売却処分に当たつて控訴人のした判断には、右のような濫用ないし逸脱のないことが明らかである。

(ロ) 訴外大沢らに対する本件土地の売却は、また、地方自治法施行令一六七条の二第一項第四号の「競争入札に付することが不利と認めるとき」に該当する。

本件取得地は、買手がつかずに、公社が約一〇年間も抱え込まざるを得なかつた土地である上、当時の社会情勢からして、本件土地を競争入札に付すれば予定価格である3.3メートル当たり七万円を下回ることは確実であり、また、いつたん競争入札に付して不調となれば、ますます右予定価格で売却することが困難となることは必至で、かえつて市に損害を与えることになるおそれがあると認められたからであるから、本件土地の売買は、「競争入札に付することが不利と認められるとき」に当たるものである。

(ハ) 本件売却処分のうち、(一)の土地の売買は、また地方自治法施行令一六七条の二第一項第五号の「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき」に該当する。

(一)の土地を含む本件土地の売却予定価格を3.3平方メートル当たり七万円としたのも、訴外大沢らが本件土地をほぼ右価格で買い受けたのも、本件土地全体を一括して評価した結果であり、(一)の土地のみを処分しようとすれば、前記(イ)のとおりの事情からその売買額が極めて低廉なものとならざるを得ないことが明らかであるから、(一)の土地を、(二)の土地及び(三)の土地とともに訴外大沢らに売却することは、右五号の場合に該当するというべきである。

(七) 市の条例では、市有地の処分について、一件五〇〇平方メートル以上で予定価格二〇〇〇万円以上のものの売払いは議会の議決を要することとし、その余の売払いは市長の権限としているが、本件売却処分は右市長の権限内のものであり、しかも、適正な対価をもつてなされたものであるから、地方自治法二三七条二項の規定に反するものではない。右条項にいう「適正な対価」とは、地方公共団体における当該財産の取得価格、所有期間中の金利のほか、売買の難易、売却についての財産上の必要性等諸般の事情を総合した妥当な価格を意味するものであり、必ずしも時価を意味するものではないが、前記のような事情からすれば、本件売却処分の対価は、右のいずれの意味においても適正なものである。

六  同一四枚目裏五行目から同一六枚目までを次のように改める。

市議会は、昭和五五年六月一三日、本件売却処分について、本件土地を表示し、契約金額、及び相手方を具体的に明示して、地方自治法九六条一項六号の規定による追認の議決を求める旨の控訴人提出の議案を、原案どおり可決した。

したがつて、仮に本件売却処分の対価が適正なものでなかつたとしても、議会の右議決によりその瑕疵は治癒されたものであるから、もはや、右対価が適正でなかつたことを理由として、控訴人の損害責任を問う余地はなくなつたというべきである。

七  同一六枚目裏五行目の「同4(四)のうち、」から同七行目の「否認する」までを「同4(四)の事実は不知」に、同八行目の「同4(五)の主張は争う」を「同4(五)のうち、小山内議員の紹介により訴外大沢が買受申入れをしたことは認めるが、その余は不知」にそれぞれ改める。

八  同一六枚目裏九行目から同一七枚目表二行目までを次のように改める。

(四) 同4(六)の主張は争う。

地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「契約の性質又は目的が競争入札に適しないものであるとき」に「特別の縁故がある者に売り払うとき」が含まれるとしても、右の特別の縁故がある者への売払いとは、買収又は収用した土地を旧所有者に更に売り渡すとき、地方公共団体の所有地の地元民に産物を売り渡すとき等を指すものであるから、本件土地の訴外大沢らへの売却がこれに該当しないことは明らかである。

(五) 同4(七)のうち、控訴人主張のような条例が存在することは認め、その余の主張は争う。

地方公共団体の財産の売却は、財務会計上、不用財産を処分して財源を獲得することが主要な目的であるから、その目的を達成するためには、最も高い価額で契約すべきであり、地方自治法九六条一項六号、二三七条二項の「適正な対価」は、当然、時価を基準とすべきものである。

控訴人主張の本件売却処分の際の価額の決定が合理性を欠き、右売却代金額が適正な対価といえないことは、次の点からも明らかである。

九  同一七枚目表三行目の「保育所用地」の前に「控訴人主張の」を加える。

一〇  同一七枚目裏七行目から同一八枚目表五行目までを次のように改める。

5 (抗弁に対する反論)

住民訴訟の制度は、議会をも含めた地方公共団体の機関が正常な機能を果たさない場合に、補充的にその財務会計上の非違を訴訟で是正させようとする趣旨に出たものである。そして、控訴人のした本件売却処分は、地方自治法二三四条二項の規定に違反する違法な行為であり、議会の議決の有無にかかわらず本来違法な行為であるから、同法九六条一項六号所定の議決があつたからといつて適法な行為となるものではなく、住民訴訟が許されなくなるものではない(最高裁大法廷昭和三七年三月七日判決(最高裁判所民事判例集一六巻三号四四九ページ)参照)。

三 証拠<省略>

理由

一請求原因1、6の事実及び控訴人が訴外大沢らに対して本件売却処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二本件売却処分の経緯についての当裁判所の判断は、次に付加し、改めるもののほか、原判決二〇枚目裏初行から同三四枚目表初行までの説示と同一であるからこれを引用する。

1  同二〇枚目の裏初行の「相鉄線及び小田急線」を「相模鉄道及び小田急電鉄」に、同一〇行目の「国鉄」を「日本国有鉄道」に改める。

2  <証拠関係省略>

3  同二一枚目表五行目の「一日」、同一〇行目の「昭和三八年六月に、」及び同二二枚目表初行の「四月一日」を削り、同七行目の「構成されており」を「構成され、理事長は理事の互選により助役又は市の総務部長がなつており」に改め、同八行目の「確かに、」から同裏初行の「存在である。」までを削り、同末行の「また、」の次に「昭和四一年五月二〇日」を加え、同二四枚目表四行目から五行目にかけて及び同八行目の「海老名市」をいずれも「公社」に改め、同裏八行目の「涯の土地」から一〇行目の「低くなつており」までを「涯の土地(畑)がやや低く、(三)の土地が約八〇センチメートル低くなつており、低湿で」に改め、同二五枚目表八行目の末尾に「右決定に当たつては、近隣の取引事例として、昭和四七年三月八日、約三〇〇メートル南方の鉄道線路沿いで本件取得地同様の低湿な田五〇坪が坪当たり一万円で売買されたことも考慮した。」を加え、同裏三行目の「昭和四八年中には」、同四行目の「昭和四九年中には」及び同二七枚目裏五行目の「一般私人」から同八行目の「あるが、」までを削り、同二八枚目表三行目の公共機関である市として」を「公社として」に、同四行目の「すぎること」を「すぎると考えられたこと」に、同六行目の「考えはしなかつた」を「ことはしなかつた」にそれぞれ改める。

4  同二八枚目表六行目の次に、次のように加える。

(5) また、(一)の土地は、国有地であり、従前市道として認定されていたが、公社は、右土地が、原判決別紙図面記載のとおり、本件取得地の中間に存在するため、本件取得地は涯の土地と(三)の土地とに分断され、利用価値が低下しているところから、本件取得地の有効利用を図るため、昭和四八年四月六日、市に対し、涯の土地中東側の部分(のちに分筆され、一五四八番の四の土地となつた部分)を市道敷地として市に無償使用させることを申し出るとともに、(一)の土地に存する市道を右敷地に付け替えることを申請した。市はこれを受けて、市議会において、右のとおりの市道の路線変更の議決を経た上、同年七月三日、右路線変更の告示をし、そのころ、一五四八番四の土地を市道として供用開始した。右路線変更に際し、市と公社との間では、将来、公社が涯の土地の残余の部分(のちに分筆され、(二)の土地となつた部分)及び(三)の土地を処分するときは、市は(一)の土地をも一括して処分するよう協力する旨の合意がなされた。公社は、同年一〇月五日、涯の土地を分筆して、(二)の土地及び一五四八番の四の土地とする分筆登記手続を了した。

その後、市は道路法九四条二項の規定により、建設省所管国有財産部局長である神奈川県知事に対して(一)の土地の譲与を申請し、昭和四九年一二月一〇日その譲与を受けて所有権を取得し、昭和五一年三月五日その所有権保存登記がされた。

5  同二八枚目表七行目の「(5)」を「(6)」に、同八行目の「呈示していたが」を「呈示したものの売却できず、公社所有の代替用地の中では取得時期が最も古いものとなつていたが」にそれぞれ改め、同行目の「その後も、」から同裏八行目の「検討され、」までを削り、同一〇行目の「公社」の前に「改めて代替用地の処分について検討され、」を同二九枚目表三行目の「理事会として」の次に「、当時の地価の状況をも考慮して」を、同四行目の「基準」の前に「おおむねの」をそれぞれ加え、同行目から五行目の「弾力をもつて」を削り、同行目の末尾に「その後も、大和市土地開発公社から同市の地権者が本件取得地付近の土地の買受けを希望しているとの紹介があり、本件取得地を呈示したが断られ、また、市の中学校用地の地権者にも呈示したが断られた。」を加え、同六行目の「(6)」を「(7)」に、同九行目の「市議」を「国雄」に、同裏四行目の「営なむ」を「営む」にそれぞれ改め、同末行の次に、次のように加える。

(8) ところで、公社は、前記のように、公有地の拡大の推進に関する法律に基づき設立されたものであるが、公社が公共用地取得の際の代替用地として取得した土地を直接私人に売り渡すことは公社の性格から適当でないと考えられたこと及び公社としてはその所有地をその帳簿価格(公社の取得価額に売却時までの公社の借入金利息相当額及び公社の事務費を加算したもの)で市に売り渡し、市がこれを売却することによつて、右帳簿価格と市の売却価額との差額を市の収入とすることができるということから、公社では、従来から、公社所有地を代替用地として私人に売却する場合も、公社からは直接売却せず、いつたん市に売り渡し、市を経由した形をとつて売却するのが慣行であつた。そして、その際、買受希望者との売買価額の協議はすべて公社において行い、右協議が成立したのち、公社からその土地を公社の帳簿価格で市に売り渡し、市が右の買受希望者との間で右協議のととのつた価額による売買契約を締結するという方法をとつていた。

6  同三〇枚目表初行から同裏末行の「ことになつた。」までを、次のように改める。

(9) 当初、訴外大沢は、本件取得地のうち比較的立地条件のよい(二)の土地のみを買い受けたいとの意向であつたが、公社の担当者から、市の所有となつている(一)の土地(廃道敷)については、市と公社との間で、(二)の土地及び(三)の土地を処分する際には一括して売却する旨の合意がなされていることの説明とともに、立地条件の悪い(三)の土地のみが売れ残つた場合、それを処分することはますます困難となるので、(二)の土地のほか、(一)の土地及び(三)の土地を含め、本件土地全体を一括して買い受けてほしいとの要望がなされ、結局、本件土地全体を売買交渉の対象とすることになつた。

7  同三〇枚目裏末行の「本件土地」の前に「公社及び市の担当者との」を加え、同三一枚目表初行の「坪当り六万円」を「せいぜい坪当り六万円まで」に改め、同三行目の「決定された」の前に「おおむねの基準として」を加え、同四行目から五行目の「応じなかつた」から同六行目の「その見返りとして」までを「応じられないとの態度をとつた。そして、交渉の結果、価額の点は端数の金額を減額して合計一一九〇万円(坪当たり六万八七三一円)とし、その見返りとして、訴外大沢の要望により」に、同一〇行目の「等の」を「についての」にそれぞれ改め、同行目から同末行の「、坪当たり七万円で」及び同裏二行目の「都市計画法施行令」から同四行目の「による」までを削り、同九行目の「表向きは」を「ただ、公社及び市に対しては建売分譲の目的を告げず」に改める。

8  同三二枚目表初行から同末行までを次のように改める。

(10) 右交渉の結果、公社及び市の担当者と訴外大沢らとの間に、本件土地の売却について一応の合意が成立したので、前記(8)のとおり、公社が本件取得地をその公社における帳簿価格でいつたん市に売り渡し、市がそのうちの(二)の土地及び(三)の土地と(一)の土地を併せて売却することとなつたが、控訴人を初めとする市の担当者は、改めて本件土地の価格鑑定を経ることはしなかつた(控訴人が右鑑定を経なかつたことは当事者間に争いがない。)ものの、本件取得地が、公社の保有地の中で取得時期の最も古いもので、これまで何度となく地権者らに代替用地として呈示しながら、公社が処分の際の基準としていた坪当たり七万円の価額では割高であるとして、結局、処分できなかつた立地条件の悪い土地であり、土地ブームが去つた後は特に立地条件の悪い土地の処分が困難となつている情勢であつたため、自ら進んで買い受けたいという申出があつたこの機会に、不要な残土の搬入によつて埋立てに便宜を与えることを考慮しても、前記のような経緯、事情のある(一)の土地と一括して、本件土地全体をほぼ右の価額で処分することができるなら上首尾であつて、市にとつて有利であり、相当の期間と手数を要する一般競争入札に付していたのでは、ようやく現れた買受希望者が買受けの意思をひるがえしてまた売れ残つたり、立地条件の悪さから買いたたかれて、右の価額より低額にしか売却できないおそれがあると判断し、地方自治法二三四条二項、地方自治法施行令一六七条の二第一項四号の「競争入札に付することが不利と認められるとき。」に当たると考え、随意契約の方法によつて訴外大沢らとの売買契約を締結することとした。

海老名市には、地方自治法九六条一項七号の規定により議会の議決に付さなければならない財産の処分は、予定価格二〇〇〇万円以上の不動産の売払いで、土地については一件五〇〇〇平方メートル以上のものに係るものに限る旨の条例が存し(この事実は当事者間に争いがない。)、その余の市有地の売却は市長の権限とされていた。

そして、控訴人は、市を代表して、昭和五一年三月四日、本件取得地を公社での帳簿価格(涯の土地は一八五万八〇五四円、(三)の土地は六三万七四九一円)で公社から買い受けた上、随意契約により、本件土地のうち(一)の土地及び(二)の土地を訴外大沢に対し代金八二六万円、(三)の土地を訴外石川に対し代金三六四万円合計一一九〇万円で売却することを決裁し、

9  同三二枚目裏初行の「三者間において」次に、「(一)の土地は、まだ市名義の所有権取得の登記が未了であつたところから、」を加え、同三行目の「三番」を「八番」に、同九行目の「締結」を「作成」に、同三三枚目表初行及び六行目から七行目の「涯の土地」をいずれも「(一)の土地及び(二)の土地」に、同五行目の「(9)」を「(11)」にそれぞれ改め、同八行目の「、事実上」から同裏初行の「ならせている。)」までを削り、同二行目の「(一)(二)の土地」を「(一)の土地及び(二)の土地」に改め、同七行目から九行目の括弧書き部分を削る。

三本件売却処分の経緯は、以上のとおりであり、被控訴人は、まず本件売却処分は、控訴人、公社関係者、訴外大沢らが共謀して一建築業者の利益を図るためにした違法なものであると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、前記認定の事実によれば、そのような共謀は存しなかつたことが認められる。

四次に、被控訴人は、控訴人が海老名市長として、市を代表して訴外大沢らに対して本件土地を一般競争入札の方法によらず、随意契約によつて売却したことは違法であると主張する。すなわち、地方自治法二三四条一項は、普通地方公共団体の締結する売買契約については、一般競争入札、指名競争入札(同条三項は、これらを併せて「競争入札」と称している。)、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとし、同条二項において、随意契約によることができるのは、政令で定める場合に該当するときに限るものとしており、地方自治法施行令一六七条の二第一項は、右の随意契約によることができる場合として一号ないし七号の場合を掲げている。そして、控訴人のした本件売却処分は、同法二三四条二項及び同令一六七条の二第一項の規定により随意契約によることができる場合に該当せず、一般競争入札の方法によるべきものであつたのに、随意契約の方法によつたものであるから、これらの法令に違背する財産の処分であると主張する。

そこで、次に、この点について判断する。

1  右のように普通地方公共団体がその所有の不動産を売却する場合においても、地方自治法二三四条一項及び二項の規定により契約締結の方法として一般競争入札を原則とし政令で定める場合に該当するときに限り、随意契約の方法によることができるものとしているのは、主として、契約手続の公開による公正の確保、契約価額の有利性を図るためであり、随意契約によることがより有利であり、合理的である場合もあり得るが、随意契約によることの弊害を防止することを重んずる趣旨に出たものである。そして、地方自治法二三四条一項、二項及び同法施行令一六七条の二第一項は、およそ普通地方公共団体の締結する売買、貸借、請負その他の契約全般について適用されるものであり、普通地方公共団体の長の行う事務の執行は、さまざまな事情の下で、多種多様な個別的、具体的事情を総合的に考慮し、合目的的判断により遂行するものであることからすると、同法施行令一六七条の二第一項各号に掲げる場合に該当するか否かは、抽象的な形式的又は画一的基準によつて決すべきものではなく、法が同法二三四条二項の規定により確保しようとしている売却手続の公開による公正の確保及び契約価額の有利性を図るという目的に照らし、諸般の事情を総合的に勘案して決するべきものである。<中略>

5  以上のところからすれば、市所有の(一)の土地は、それ自体独立の取引の対象とし難いものであり、また公社所有の(二)の土地及び(三)の土地は、立地条件が悪いため妥当な条件で売却することが極めて困難であり、しかも、これから三個の土地を一括して売却することが合理的であつて市にとつて有利であること、市及び公社においても、財政の健全化のため、本件取得地の処分が急がれる状況にあつたところ、ようやく、従来公社において種々検討して、でき得ればその程度の価額で売却したいと考えている平均坪当たり単価約七万円で本件土地を一括して売却できることについて訴外大沢らと市及び公社の間で協議が成立し、その協議結果を実現するために、(二)の土地及び(三)の土地を公社からその帳簿価格で市が譲渡を受け、市の本来の所有の(一)の土地と併せて一括して売却したものであつて、そのような方式が採られたことには充分の合理性があり、市にとつてそれが得策であつたことがうかがわれる。そして、このような事情の下において、本件土地を訴外大沢らに随意契約により売却したとしても公正の維持に欠けるところはなく、市にとつて不利益というよりはむしろ有利であるというべく、それにもかかわらず、改めて相当の期間と手数、費用を要する一般競争入札の方法を採つていたのでは、従前の経過からして、訴外大沢らが買受けの意思をひるがえし、結局、同人らにも売却することができず、折角の有利な機会を逸するおそれがあつたものというべきであつて、以上の事情を総合的に考えれば、本件土地の訴外大沢らへの随意契約による売却については、地方自治法施行令一六七条の二第一項四号の「競争入札に付することが不利と認められるとき」に該当するものというべきである。<中略>

6  しかも、<中略>本件売却処分当時、本件土地全体を一括してみた場合の価格として坪当たりほぼ七万円という価額は、客観的にも時価と一致するものであつたと認められる(原審証人後藤守の証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できない。)が、(一)の土地又は(三)の土地のみ時価はこれを大幅に下回るものであつたと認められる。

したがつて、少なくとも、(一)の土地の訴外大沢への売却は、地方自治法施行令一六七条の二第一項五号の「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき。」にも該当し、この点からも随意契約によることができる場合に当たるものというべきである。

7  また、(二)の土地及び(三)の土地は、前記のような経過をたどつて、公社において訴外大沢らと売買についての交渉を行い、これらの土地と市所有の(一)の土地とを一括して同人らに売却する協議がととのつた段階で、前記のような事情から、市によつて一括して売却を行い、差益を市に取得させるために、市の所有に移されたものであつて、市としては、これを公社の帳簿価額である二四九万五五四五円で買い受け、そのうちの(二)の土地及び(三)の土地を、国から無償で譲与を受けていた(一)の土地と一括して、訴外大沢らに一一九〇万円で売却し、九四〇万四四五五円の差益を得たものであり、これに右6の事実を併せ考えると、本件土地を一括して、しかも平均坪当り単価七万円程度による本件売却処分は、競争入札によるときは、右のような内容による売却が極めて困難であつて、正に地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」にも該当し、この点でも随意契約によることができる場合に当たるというべきである。

したがつて、本件売却処分には、一般競争入札の方法によるべきであるのに随意契約によつた違法がある旨の被控訴人の主張は理由がない。

五次に、被控訴人は、また、随意契約における相手の選定、売買価格の決定等について控訴人が著しく注意義務を欠いた旨主張し、控訴人が本件売却処分をするについて本件土地の価格の鑑定を経なかつたことは前記のとおりであるが、前記四の事実からすれば、控訴人が市を代表して訴外大沢らと本件土地の売買契約を締結するに当たり、市長として尽すべき注意を怠つたとは認められないから、被控訴人の右主張は理由がない。

六また、被控訴人は、本件売却処分は、本件土地を不当に低廉な価格によつて売却処分したものであるから、裁量の範囲を著しく逸脱した違法な行為であると主張する。しかし、前記四のとおり、本件売却処分における売買価額は、本件土地全体を一括してみた場合、時価による適正な価格であるというべきであるから、本件売却処分は、控訴人が不当に低廉な価格によつて売却したもので、裁量の範囲を著しく逸脱した違法な行為である旨の被控訴人の主張は、その前提を欠くものであつて、失当である。

七しかも、地方自治法二三七条二項は、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、適正な対価なくしては譲渡してはならない旨を規定し、右の議決は、同法九六条一項六号の規定するところであるが、<証拠>によれば、本件売却処分は、同法二三七条二項にいう市の条例による場合に該当しないことが明らかである。そして、右各条項にいう適正な対価とは、原則として時価をいうものと解されるが、右の議決を要する場合に、議決なくしてなされた譲渡は、その効力を生じないものと解すべきであるから、被控訴人主張のように、本件売却処分が不当に低廉な価格によつたものであつたとすれば、本件売却処分は、同法九六条一項六号の規定による市議会の議決がない限り、同法二三七条二項の規定に違背し、その効力を生じないこととなる。そうだとすれば、市は、本件売却処分によつては本件土地の所有権を喪失しないから、市には被控訴人主張のような損害は生じないものというべきである。

もつとも、<証拠>によれば、本件売却処分については、原判決言渡しの後である昭和五五年六月一三日、市議会において、控訴人が抗弁で主張するような地方自治法九六条一項六号による議決がなされていることが認められるから、本件売却処分が仮に適正な対価なくしてなされたものであるとしても、譲渡の効力を生ずるに至つたものというべきであり(被控訴人の援用する最高裁判所大法廷昭和三七年三月七日判決は、地方公共団体の議会の議決があつても適法となる余地のない無効な法律に基づく公金の支出について、議会の議決があつたからといつて、法令上違法な支出が適法な支出となる理由はないとするものであるが、適正な対価をなくしてする財産の譲渡は、地方自治法九六条一項六号、二三七条二項による議会の議決があれば適法であるから、右判例は、本件とは事実を異にし、本件に援用するのは適切でない。)、これにより本件土地の所有権は、訴外大沢らに移転したことになるが、その場合、本件土地の適正な対価なくしてなされた本件売却処分は、適法なものとなるのであるから、適正な対価との間に差額があるとしても、何らの違法性もなく、控訴人が市に対して損害賠償責任を負担することはあり得ないというべきである。

八したがつて、被控訴人の本訴請求は、いずれの点からしても理由がなく、これを一部認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中被控訴人の本訴請求を認容した部分を取り消して、被控訴人の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(香川保一 菊池信男 柴田保幸)

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